2020/08/06日本経済新聞『運用大手、報酬下げ裏目に』より 投信残高増加でも・・・大手運用会社は収益悪化に苦しんでいるという、昨今の資産運用ビジネスを取り巻く環境の縮図です。記事では公募投信を運用する主な運用会社11社の2020年3月期は7社が減収。
理由は(折に触れこのブログでも書いていますが)、運用報酬が安い指数連動型投信への資金流入が進んでいることにあります。報酬が比較的高い人気投信を抱える会社は増収傾向のようですが、報酬引き下げの流れの中で収益基盤が盤石とは言えなくなっているとのこと。 20年3月期は3月後半でコロナショックがあり、株式投信(除くETF)の残高は3月末時点で56兆円、前年比12%減少したとのことですが、年間の平均残高は0.5%減と市場規模はそれほど縮小はしていないようです。にもかかわらず半数超の会社で営業収益が減少、5社で営業減益となったようです。 収益悪化の原因は、運用会社が残高に応じて受け取る信託報酬の低下で、紙面の調査会社によると20年3月末時点の公募投信(除くETF)の信託報酬は1.26%と前年から0.08%低下、7年連続の低下で過去最低を更新。人気投信として残高が増えても、運用会社の収益に結びつかないケースもあるとして、日興アセットの例が挙げられています。
このブログでも以前紹介した「グローバル3倍3分法ファンド」は先物取引を使ってレバレッジを活かし株や債券に分散投資を行うというコンセプトで大ヒット。19年度の資金流入は6000億円を超え「投信業界最大のヒット」と言われ、どんどん後追いの二匹目のドジョウ商品が誕生しました。この3倍3分法の信託報酬は0.48%程度(1年決算型)と、他と比べて低めの設計になっています。一方で報酬が高い投信からの資金流出が目立ったため、日興アセットは減収減益になっています。 三菱UFJ国際投信は低信託報酬商品で業績が悪化してしまいました。こちらは常に業界最低水準に報酬を下げていく人気商品eMAXIsシリーズを持ち、資金は流入超で残高は増加傾向とは言え、収益には直結していません。パッシブ運用やETFは信託報酬が低く、たとえ残高が大きくなっても収益貢献度が低い商品です。パッシブ型投信全体の資産残高は12兆円と10年前比で2.5倍に膨らみ運用会社の収益環境は厳しいのもわかります。 それでもどうして低コスト商品を投入し続けるのか?これは長期目線での顧客資産獲得作戦です。信託報酬を下げても長期資金で安定的な資産増は、いずれ収益化できるとの目算なのでしょう。「つみたてNISAなど若年層の資産形成に使ってもらう」との三菱UFJ国際投信のコメント(体力のある大手ならではの戦略です)もありました。 ただ全体感を踏まえると、そのパイが膨らむという観点はちょっと微妙です。ETF除く投信の残高は10年前からたった1割増にとどまっており、折に触れ目にする「貯蓄から投資、貯蓄から資産形成」の流れは進んでいない印象です。 資産運用の市場規模自体が大きくなっていない中での、報酬引き下げ競争は「勝者なき戦い」の消耗線になってしまいます。 最後には業績好調な運用会社の勝因は信託報酬が高めのアクティブ投信の残高が増えたためとありますが、このアクティブ型の信託報酬すら5年連続で低下傾向のようですので、テーマ型投信乱造で低コストの波に逆らうのは難しいのではと思ってしまいます。
資産運用はリスクを取ってもリターンが不確実なので、確実に負担しなければならないコストを最小化するのは当然です。しかし何が何でも低コストのインデックスでといのはやはり安直です。 あの資産やあの市場はインデックスで投資してもダメというのもありますし、投資哲学や専門性が際立ったお金を預けたいと思うアクティブハウスもたくさんあります。そういう投資家が増えてきてこそ、投資家の裾野が広がり本当の意味での投資家本位の資産運用ビジネスが成り立つのではないかと思うのですが、まだまだ先のことでしょう。
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