2019/11/10日本経済新聞 『資金循環 ゆがみ拡大』より
従来の「家計が貯めたお金を銀行へ、銀行からお金が借りた企業が設備投資を行い経済を拡大させる」という資金循環に異変とあり、2000年代より企業は稼いだお金を使い切らず、高齢化した家計も使うより貯めこむという状況が続き、余ったお金は政府が借金として借りているというのが、世界的な現象となってきています。
国の経済は企業、家計、政府、海外の4つに分かれ、お金の流れを表す「資金循環統計」では、企業は借金をして収入以上にお金を使う「資金不足」の主体、家計は将来のために所得の一部を貯蓄する「資金余剰」の主体というのが通説でした。家計の貯蓄が銀行などの金融機関を通じて企業に貸し出され、企業は工場や設備投資、新商品開発などの投資を行って、雇用拡大や所得増加で家計に還元する形で経済サイクルが動いてきました。
1960-80年代の日米企業は国内総生産比で約2-7%程度の資金不足が続いたと言われます。
しかし2000年代からはこの状況が大きく変わったと言われ、欧州委員会によると日欧米の企業部門は02年から資金余剰の傾向が定着、その後18年までの累計で1000兆円強の資金を貯めこんでいるとされています。まさに利益の範囲でしか投資を行わない結果と言えます。日本企業は90年代後半の金融危機で借り入れを減らし投資を抑制、米国も08年のリーマンショック以降、お金を抱え込む企業が増えたと言われます。
こうした企業部門の変化には、産業構造の変化があります。日米欧経済では製造業の拠点が新興国へシフトし、IT産業が経済成長の中心を担うようになって来ました。産業構造の変化で、かつてのような巨大投資を行う必要性は薄れ、身軽な経営を行う企業も多くなっています。米国の著名IT企業(GAFA等)では、純現金収支は直近5年の合計で約1000億ドルにものぼる巨額の黒字となっています。
一方家計部門では、日米欧ともに高齢化が進む中で、本来は貯蓄の取り崩しが進んでもいいのですが、長寿化社会の老後の不安がより一層強まって、より長く働きより沢山のお金を貯め込むという傾向が強まっています。
余ったお金を一手に借り受けているのが政府部門で、日米欧で過去30年の政府部門の資金不足の累計が約37兆ドルにものぼり、企業・家計の余剰分(34兆ドル)を全て吸い上げている状態です。この状態でも尚、日欧中心に多くの国の国債利回りはマイナス金利を推移して、国の借金が膨らんでいることのリスクが顕在化してないことが異常です。
企業や家計という実態経済の大きな部分をつかさどる経済主体の資金需要の減少・長期低迷が続く中で、政府の借金だけが大きくなる今の状態はどこまで維持できるのかと気がかりではあります。
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