2019/09/03日本経済新聞『中小M&A、適正価格で』より
本日は企業価値の観点から関連記事をピックアップします。
中小企業の事業承継において後継者不足が深刻な社会問題化、その解決策としてM&A(合併・買収)による会社売却が急増しているとあります。
このM&Aにおいて最大のポイントとも言えるのは「企業価値の算定」なのですが、これが大企業と中小企業のケースでは全く異なるというものです。
大企業の場合、投資銀行(証券会社等)の専門部隊がそれぞれ売り手と買い手の価格交渉を担い、株主への説明責任として第三者機関が企業の公正価値を算出します。こうした仕組の結果、適正な取引価格が決まるというシステムになっています。
一方で、中小企業の場合は、大企業の場合のように大手専門アドバイザーは介在せず、中小企業専門のM&A専業会社が仲介します。このシステムでは「売りたし」と「買いたし」企業の双方が折り合えそうな価格で調整を試みながら取引が行われます。
中小企業のオーナーは事業業に対する意欲について並々ならぬ情熱をお持ちの方が殆どであるにも関わらず、ご自身の事業の集大成である「自社の企業価値」については、あまり知見が無いケースが多く、仲介業者から提示される価格が前提に取引が行われることが圧倒的に多いと思います。この中小企業の売却価格は「純資産+営業利益の〇倍」といったとても簡素化されたフォーミュラで決められることが多く、本記事の筆者は「短時間に効率的に値付けして回転的に買取行為を行うブックオフの古本の査定のようだ」と言っています。しかし、売り手企業オーナーにとっては、数億円、数十億円にもなる、多くの想いがぎっしり詰まった我が子(会社)を古本のように扱うこの手法(私も売却オーナーサイドの影武者番頭として数件M&Aに関わった際にいつもどこかで感じる)、釈然としない違和感です。
記事にもあるように、そもそも非上場企業の企業価値算定は、市場での取引がある上場企業のそれより非常に困難です。不動産のように近隣での売買事例の情報を基に参考価格が類推できそうなケースとも違い、そもそも財務情報が非開示、類似業種もなく、事業内容・財務状況も独特、ビジネスモデルも超個性的という、オーナー家による未上場・中小企業ならではの特徴も、企業価値算定を困難にしています。
売り手企業のオーナー家にとっては、M&Aは一生に一度(あるかないか)の大切な機会であり、自分の生涯をかけて心血を注いだ会社をヒトにお渡しするライフイベントに他なりません。※私がかつて関与した企業オーナーの「酸いも甘いも共にしながら、大事に育てた娘を嫁にやるようなもんだ」という方や、「くれぐれも従業員家族の将来や生活だけは、どうかお願いします」という言葉と共に、買い手のオーナーに引き渡す方、それぞれの姿は昨日のように覚えています。
勿論、企業価値は価格・金額だけではありませんが、買い手と売り手の「情報の非対称性」によって、大切な資産を手放す方の利害が損なわれることが無いよう、透明性が担保された取引形態がとても大切だと思います。
なんだかこのストーリー、金融(商品)の世界では買い手と売り手の情報格差が逆の構図ではないか。。。?
つまり、売り手が情報を沢山持っていて、買い手が情報弱者になっています。
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